職人・若手の育成
齋藤修 職人歴 53 年

中学校から集団就職の時代、長野から蔵前工房の前身高橋皮革工芸で働くため上京して来ました。 何もわからなくて不安だったけれども、地元の人もこの工場には多く、いい人たちと一緒に働いてこれたのと、仕事も自分に合っていたのでしょう、今年で53年になります。

長らく革小物の量産の仕事もやって来ましたが、今は主に新商品を作るときの見本の製作を担当しています。工場なのでいかに数を流せるかというところ、デザインは活かしたまま、作るときになるべく手が省けて、数を作れる、誰でも綺麗に早く作れるものにするかというところが大事です。いつも特に、いかに早くできるか、というのを考えて仕事をしていますね。

今は見本を作るとき、型紙を作っている時間が好きです。実はものを作り始める前の段階の型紙を作る段階で全体像はできてしまうのです。いかに型紙を作って量産に向けるか、というのがあるのでデザイン画が来て、型紙を裁っている時が一番楽しい時かな。図面が来て眺めて、他のこともしながらではありますけれども図面によっては丸一日向き合っていることもあります。図面と会話している時間は結構長いです。型紙を裁ち始めるときには、すでに仕上がりまでを頭の中に入れてしまうんです。
作っていてまだ”これ”ということがないんですよね。納得していないんです。見本を作るときでも、外のものを見るとまだまだ上には上がいるので、そういう方たちに少しでも近づければと思っています。年齢的にももういいですよと言われればそれまでですが、今はまだいてもいいですよと言ってもらっているので、やれるうちは上を目指してやっていきたいと思っています。若い時からそういう気持ちでやって来ました。

蔵前工房の財布は普段婦人物を作ることが多い中での紳士物ということで、工夫しながら手探りでじっくり向き合わせてもらって取り組みました。ベジタブルの革は一言で言うといやらしい革。職人からすると硬くて扱いにくいんです。作ると言うことに関してはデザイナーの人とよく話しながら時間をかけて、できるだけこうしたいと言う企画の人の声を活かして手がけました。

見本を作って、よくできています、綺麗です、と言われることが一番嬉しいです。たまに自分で作ったものを街で使っている人を見かけると声をかけたくなっちゃう。ただこう作っているだけでなく、誰かが使ってくれていると思うと感激というか、やはり嬉しいですね。

若い人たちと仕事をすることは刺激もありますし、教えられることも多いです。以前は見本も作りながら量産の製品のミシンもかけて、とやっていましたが、今は量産は若い人たちに任せています。とりあえずこうですよ、とはいうけれど、任せているのでその先はそれぞれで工夫した違うものになって作っていっているのではないかと思います。新しいものを作るときには聞いてくれるので伝えますが、本人のやり方も尊重したいのであまり口出しはしません。

立場的には若い人たちを育てていく立場にいます。職人が高齢化しているので、会社としても若い人を育てる研究機関としての取り組みもしていて、自分は教える立場です。その人たちに一日でも早く独立してやって行ってもらえるように、いい指導ができるようにと模索中です。

自分が職人になったときには見て覚える、というものでしたが、今はどこまでちゃんと教えたらいいのかなというのは少し悩んでいます。全部教えてしまうのは簡単なのですが、ちょっと教えてあとは本人に考えさせるのがいいのか。本人にやる気があれば少しくらい放っておいてもいいのだけれど、人によってペースがありますから。それぞれにどうするといいのかなと、いかに教えて独立して職人になってもらうのか。期間も限られているのでそれぞれに合わせた指導法をと思いますが、なかなか出来ません。これからはこれが私にとって一番の仕事であり、自分なりに勉強中であります。